大判例

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東京地方裁判所 昭和47年(特わ)5号 判決

被告人

本籍

韓国全羅南道威平郡月也面外峙里

住居

東京都台東区浅草二丁目一八番四号

職業

会社役員

小林健次こと

林木祥

大正七年六月二四日生

被告事件

所得税法違反

出席検察官

丸山利明

主文

被告人を懲役一年および罰金二、五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となる事実)

被告人は、東京都台東区浅草二丁目一八番四号ほか四カ所において、グランド日輪、トルコスター、モナコ、一号線、ゴールデンシャトウ等の名称で、キャバレー、トルコ風呂、パチンコ店等を経営していたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上げの一部を除外して簿外預金を設定する等の方法により所得を秘匿したうえ

第一  昭和四三年度分の実際課税所得金額が七九、一〇六、〇〇〇円あったのにかかわらず、昭和四四年三月一五日東京都台東区蔵前二丁目八番一二号所在の所轄浅草税務署において、同税務署長に対し、課税所得金額が四、二九五、〇〇〇円でこれに対する所得税額が一、三〇二、〇〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出する不正の行為により、同年分の正規の所得税額五〇、一四八、八〇〇円と右申告税額との差額四八、八四六、八〇〇円を免れ(別紙一、三)

第二  昭和四四年度分の実際課税所得金額が一〇〇、六一五、〇〇〇円あったのにかかわらず、同四五年三月一六日前記浅草税務署において、同税務署長に対し、課税所得金額が五、五五四、〇〇〇円でこれに対する所得税額が一、七八四、六〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出する不正の行為により、同年分の正規の所得税額六五、九七九、七〇〇円と右申告税額との差額六四、一九五、一〇〇円を免れ(別紙二、三)

たものである。

(証拠の標目)

(甲、乙は検察官の証拠請求の符号、押は当庁昭和四七年押一、三〇五号のうちの符合。)

1  被告人の当公判廷における供述および検察官に対する各供述調書(乙6ないし8)

2  被告人に対する大蔵事務官の各質問てん末書(乙1ないし5)

3  証人西川一夫、同早川博治の当公判廷における各供述

4  李澈煕に対する大蔵事務官の各質問てん末書(甲一の9ないし16)(ただし、甲一11 ついては第一三問答を除く。甲一12ないし14についてはいずれも抄本。)

5  西川一夫の検察官に対する供述調書(甲一17)

6  林東基に対する大蔵事務官の質問てん末書抄本(甲一18)

7  常磐相互銀行吾妻橋支店長堀本豊作成の「預金元帳等の写しの提出について」と題する書面(甲一1)

8  平和相互銀行浅草支店長原福治作成の「預金元帳等の写しの提出について」と題する書面(甲一2)および「預金等取引内容について」と題する書面(甲一3)

9  大蔵事務官作成の次の書面

〈1〉  売上明細書(甲一4)

〈2〉  勘定科目内訳明細書(損益)(甲一5)

〈3〉  当座預金裏書調査書(甲一6)

10  押収してある次の証拠物

〈1〉  所得税の確定申告書五葉(押1ないし5)

〈2〉  収支明細書一袋(押6)

〈3〉  出納帳一冊(押11)

〈4〉  当座小切手帳控三六冊(押124156)

〈5〉  十日払支払明細書一綴(押13)

〈6〉  賞与明細書等一綴(押16)

〈7〉  売上伝票等一八綴(押22293050)および八袋(押25ないし2833353657)

〈8〉  銀行勘定帳三冊(押24)

〈9〉  各店別売上台帳一袋(押31)および一綴(押32)

〈10〉  全店売上伝票銀行入金票一袋(押34)

〈11〉  出入金伝票綴一綴(押39)

〈12〉  給料明細書一綴(押40)

〈13〉  銀行入金明細(売上)票一袋(押42)

〈14〉  売上記録等七綴(押43ないし49)

〈15〉  給料明細書綴二綴(押52)

〈16〉  銀行入金明細書二綴(押54)

〈17〉  支払明細書等一袋(押55)

〈18〉  銀行入金票一綴(押58)

〈19〉  支払明細表等一袋(押59)

〈20〉  売上手控帳一綴(押60)

〈21〉  統計帳二冊(押6162)

〈22〉  売上帳一冊(押63)

(弁護人の主張に対する判断)

第一弁護人の主張

被告人は、昭和四三年度および同四四年度において、検察官が認容している以外に、さらに次のとおり必要経費を支出しているので、それぞれその金額を必要経費として増額認容すべきである。

一  芸能費

(一) トッパライ費用(当日払い特別企画芸能費)

検察官はトッパライ費用として各年それぞれ一、二〇〇万円(各月一〇〇万円)を認容しているが、実際のトッパライ費用は各年それぞれ二、四〇〇万円(各月二〇〇万円)であったので、各年とも、さらに右差額の一、二〇〇万円づつをトッパライ費用として認容すべきである。

(二) ゴーゴーガール出演費用

被告人は、ゴーゴーガール出演費用として、次のとおり昭和四三年度には松井恵子(ローヤルプロ)に対し三一万円、井上揖子に対し四万円合計三五万円を、同四四年度には井上揖子に対し八万円をそれぞれ支払っているが、検察官はこれを認容していないので、それぞれその金額をゴーゴーガール出演費用として認容すべきである。

1 昭和四三年度

(イ) 松井恵子に対する支払分

昭和四三年五月一六日~同年六月一六日分 一〇万円

同年六月一八日~同年七月一七日分 一〇万円

同年八月一日~同月三一日分 一一万円

(ロ) 井上揖子に対する支払分

同年一二月分 四万円

2 昭和四四年度

井上揖子に対する支払分

同年一月分 四万円

同年二月分 四万円

二  公租公課

検察官は公租公課中の組合費(在日朝鮮人台東商工組合に対する支出)として昭和四三年度一二万円、同四四年度二三万円を認容しているが、被告人は右金額のほか、さらに次のとおり各年ともそれぞれ一二〇万円を右組合に支払っているので、各年それぞれ一二〇万円を組合費として増額認容すべきである。

1 昭和四三年度

昭和四三年四月二四日 二〇万円

同年七月一日 二〇万円

同年七月三〇日 二〇万円

同年八月三〇日 二〇万円

同年九月三〇日 二〇万円

同年一〇月三〇日 二〇万円

2 昭和四四年度

昭和四四年三月一五日 三〇万円

同年四月三〇日 一〇万円

同年五月三〇日 一〇万円

同年五月三一日 一〇万円

同年七月三一日 一〇万円

同年九月一日 一〇万円

同年同月三〇日 一〇万円

同年一〇月三一日 一〇万円

同年一二月一日 一〇万円

同年一二月三一日 一〇万円

三  交際費

(一) 正峰会費(安井謙参議院議員後援会費)

被告人は、正峰会費を各年それぞれ一二万円(各月一万円)支払っているが、検察官はこれを認容していないので、各年とも右一二万円づつを正峰会費(交際費)として認容すべきである。

(二) 事業主交際費(社長渡し分)

被告人は、事業主交際費を次のとおり、昭和四三年度一五三万円、同四四年度一九四万円支出しているが、検察官はこれを認容していないので、それぞれ右金額を交際費として認容すべきである。

1 昭和四三年度

(イ) 検察官否認の社長渡し分七八万円

昭和四三年五月一〇日 二万円

同年六月一三日 六万円

同年一一月 一〇万円

同年一二月 六〇万円

(ロ) その他の社長渡し分七五万円

同年一二月二四日 一〇万円

同月二六日 五万円

同月二七日 二〇万円

同月二八日 一〇万円

同月二九日 二〇万円

同月三一日 一〇万円

2 昭和四四年度

(イ) 検察官否認の社長渡し分一〇四万円

昭和四四年一月七〇万円のうち二〇万円

同年一〇月 四万円

同年一二月一六〇万円のうち八〇万円

(ロ) その他の社長渡し分九〇万円

同年一月一四日 二〇万円

同月一六日 二〇万円

同月一九日 一〇万円

同月二一日 一〇万円

同月二四日 三〇万円

四  従業員給料

昭和四四年六月以降に林東基に支払った給料六〇万円が認容されていないので、これを同年度の従業員給料として認容すべきである。

第二  当裁判所の判断(事実認定は、すべて証拠の標目掲記の各証拠による。)

一  検察官の経費認定の方法について

1 (支出) 被告人の各店(以下、現場という。)の売上金は、閉店と同時に小林ビル三階の事務所(以下、本部という。)に集められ、翌日、被告人名義または仮名の当座預金または普通預金に入金されていた。ところで、支出には、〈1〉各現場において、その売上金の中から現金で支出されるもの、〈2〉本部において、各現場から集められた売上金の中から現金で支出されるもの(これには、〈イ〉社長渡しとして被告人に渡されるものと、〈ロ〉経費の支払等に支出されるものとがある。)および〈3〉当座預金または普通預金から支出されるものがあって、これらの支出の年月日および支出金額については、証拠の標目10の各証拠物によってすべて確定することができる。

2 (経費の認定)右各支出のうち、現場および本部において売上金の中から現金で支出されたもの(ただし、社長渡し分を除く。)については、個々の支出先、支出金額、使途等の不明のものもあるが、それらを含めてそのすべてが経費として認容されている。また当座預金または普通預金から支出されたものについては、そのうち支出先、使途等の判明したもので経費と認められるものは当然経費として認容され、さらに支出先、使途等は不明であっても数万円単位の少額の支出とか端数のついた数一〇万円単位の支出等その金額からみて一般に経費の支払に充てられたと考えられるものはすべて経費として認容されている。したがって、前記各支出のうち、経費として認容されていないものは、〈1〉本部における現金支出のうち社長渡し分および〈2〉預金からの支出のうち支出先、使途等からみて経費とは認められないものならびに支出先、使途等が不明であり、しかも数一〇〇万円単位の支出であるとか、端数のつかない数一〇万円単位の支出等一般に経費の支払に充てられたとは考えられないもののみである。

3 (経費の各勘定科目への分類、振分け)右各経費と認定された支出のうち、証憑書類、取引先の上申書、関係人の供述等の証拠によって各支出金額、使途等が判明し各勘定科目に分類、振分けしうるものについては、それぞれの勘定科目に振分け計上されているが、右証拠等がなくあるいは不完全であって結局個々の支出金額、使途等が判明しなかったものについては、使途不明現金出金につき現場本部支払経費として、使途不明当座預金出金につき当座預金支払経費として一括して損金処理がなされている(なお、普通預金からの支出で経費と認定されたもの(ホステス給料、従業員給料、支払利息のそれぞれ一部)については、すべてその使途が解明されていて使途不明出金はない)。ちなみに、現場本部支払経費は、昭和四三年度三五、三九四、八八六円、同四四年度一二、三四一、八八〇円であり、当座預金支払経費は、昭和四三年度四、八〇九、〇二五円、同四四年度一、九五三、六四八円である。

二  芸能費について

(一) トッパライ費用について

トッパライ費用とは、グランド日輪両店における特別シヨーや特別催物の費用のことであって、それが当日払いの費用であることからトッパライ費用と称されていた。トッパライ費用は、当日、本部に集められた売上金の中から現金で支出されていたが、具体的な支出先、支出金額等については、これを確定する資料がなく、したがってその正確な金額は必ずしも明らかではない。しかしながら、前記のとおり、本部において現金で支出されたもの(社長渡し分を除く。)のうち使途不明分については現場本部支払経費としてすべて認容されているのであるから、かりにトッパライ費用が弁護人の主張する如く各年二、四〇〇万円であったとすれば、これと検察官がトッパライ費用として計上している各年各一、二〇〇万円との差額一、二〇〇万円は、右現場本部支払経費の中に含まれて認容されていることとなり、したがってそれが各年各二、四〇〇万円であっても一、二〇〇万円であっても経費全体の金額には影響がないこととなる、(トッパライ費用を一、二〇〇万円増額して二、四〇〇万円とすれば、現場本部支払経費が一、二〇〇万円少なくなるという関係にある)。よって、この点の弁護人の主張は採用できない。

なお、現にトッパライ費用を支出していた証人西川一夫は、当公判廷において、トッパライ費用は社長渡しという伝票を切って支出していた旨、また売上金の中からばかりでなく、当座預金を引出してきて支払ったこともある旨供述している。そこで、まずトッパライ費用が社長渡しという名目で支出されていたかどうかをみると、証人西川はトッパライ費用は各年二、四〇〇万円位であった旨供述しているのに、社長渡しの金額は昭和四三年度が合計二〇四万円(ただし、このうち一二六万円は一二月の賞与に充てられているので、その分を差引くと七八万円となる。)、同四四年度が合計二五四万円(ただし、このうち一、四三九、〇〇〇円は一二月の賞与に充てられているので、その分を差引くと一、一〇一、〇〇〇円となる。)にすぎないこと、また証人西川はトッパライ費用は殆んど毎月あった旨供述しているのに、社長渡しのあった月は、昭和四三年度については、五月、六月、一一月、一二月の四カ月、同四四年度については一月、一〇月、一二月の三カ月にすぎないこと等の事実が認められるので、これらの事実によって考えると、トッパライ費用を社長渡しの名目で支出していたとする証人西川の前記供述は信用することができない。次にトッパライ費用が当座預金を引出して支払われたことがあるかどうかについてみると、本部には連日多額の現金が入金されていたのであり、しかもトッパライ費用は予め判明していたのであるからその現金を使用せず、わざわざ当座預金を引出してその支払に充てたとは考えられず、したがって、当座預金を引出してきてトッパライ費用を支払ったこともある旨の証人西川の前記供述も信用することができない。かりに、まれに当座預金から引出してその支払をしたことがあったとしても、使途不明当座預金出金として当座預金支払経費の中に含まれて認容されているものと認めるのが相当である。

(二) ゴーゴーガール出演費用について

松井恵子(ローヤルプロ)および井上揖子との間の出演契約書(押9)は存在する。そして証人西川は、当公判廷において右両名に対し契約書どおりの出演料を支払った旨供述している。しかしながら、右供述にそう証憑書類は一部しかなく(出入金伝票綴一綴(押39)中に、昭和四三年六月三〇日松井恵子に対し四五、七七〇円を、同年七月三一日シャトウ踊子出演料として五二、五六〇円を、同年八月一五日同出演料として五三、六三〇円を、同年一二月三〇日井上揖子に対し一七、三三〇円を、昭和四四年一月一五日同人に対し二〇、〇〇〇円を、同年一月三一日同人に対し二〇、〇〇〇円をそれぞれ支払った旨の出金伝票がある。)、しかも右松井、井上とも本件査察当時以来所在不明であって、右両名から、事情を聴取してその支払の事実を確認することもできない。したがって右両名に対して支払った出演料の正確な金額は結局不明である。(そのため検察官はゴーゴーガール出演費用を芸能費の中に含ませていない)。しかし、証人西川の当公判廷における供述によると、右両名に対する出演料の支払は宛先を記入した小切手または宛先を記入した出金伝票を切って現金でなされていたというのであるから、右出演料はすべて前記現場本部支払経費または当座預金支払経費の中に含まれているものと認められる。よって、この点の弁護人の主張も採用できない。

三  公租公課について

被告人は在日朝鮮人台東商工組合に対し、月一万円ないし二万円の支払をしていた(この分については組合費として認容されている)ほか、昭和四三年中に一〇〇万円(昭和四三年七月一日、同月三〇日、同年八月三〇日、同年九月三〇日、同年一〇月三〇日各二〇万円)、同四四年中に一四〇万円(同年三月一五日三〇万円、同年四月二四日二〇万円、同月三〇日、同年五月三〇日、同月三一日、同年七月三一日、同年九月一日、同月三〇日、同年一〇月三一日、同年一二月一日、同月三一日各一〇万円)をそれぞれ支払っていることが認められる。しかしながら、右支払中、昭和四四年三月一五日支払の三〇万円は被告人の所得税の支払に充てられたものと認められる(銀行勘定帳(押24)中常磐相互の昭和四四年三月一三日の欄には「浅草税務署(所得)三〇万円」と記載されている)ので、これが経費に当らないことは明らかである。その外の昭和四三年中の一〇〇万円、同四四年中の一一〇万円の支払は、いずれも越冬資金という名目で支払われ、朝鮮人学校の建設、朝鮮人貧民者の救済、北朝鮮帰国者への土産代等に使われたものであるから、被告人の事業とは関係のない、単なる個人的立場からの同胞に対する資金援助とみるのが相当である。よって、これらの支出は必要経費とは認められない。

四  交際費について

(一) 正峰会費について

被告人が正峰会費を各年それぞれ一二万円(各月一万円)支払っていたことは認められるが、右は政治家の後援会費であるから、事業遂行上必要な経費とは認められず、所得税法上控除しうる寄付金にも該当しないので、この点の弁護人の主張も採用できない。

(二) 事業主交際費について

本部に集められた売上金の中から現金で被告人に渡された社長渡し分は、昭和四三年度が合計二〇四万円(同年五月二万円、同年六月六万円、同年一一月一〇万円、同年一二月一八六万円)、同四四年度が合計二五四万円(同年一月九〇万円、同年一〇月四万円、同年一二月一六〇万円)である(弁護人が検察官否認分以外の分として主張している昭和四三年度のその他の社長渡し分合計七五万円は、検察官否認分同年一二月の一八六万円の中にすべて含まれており、同四四年度のその他の社長渡し分九〇万円のうち七〇万円は、検察官否認分同年一月の七〇万円に当る)。しかも、昭和四三年一二月の一八六万円のうち一二六万円は賞与に充てられたものとして認容されているので、同年度の認容されていない社長渡し分は七八万円であり、また同四四年一二月の一六〇万円のうち一、四三九、〇〇〇円は賞与に充てられたものとして認容されているので、同年度の認容されていない社長渡し分は一、一〇一、〇〇〇円である。

ところで、右各社長渡し分についての使途は一切不明である。被告人に対する大蔵事務官の質問てん末書(乙4)、被告人の検察官に対する供述調書(乙7)、李澈熙に対する大蔵事務官の質問てん末書抄本(甲一12)によると、被告人は経常経費の支払はしておらず、受取った右社長渡し分は生活費や私的な祝儀や不祝儀に使われていたものと認められるので、これを事業遂行上必要な経費とみることはできない。よって、この点の弁護人の主張も採用できない。

五  従業員給料について

被告人が、昭和四四年六月ころから林東基に対し他の従業員と同様毎月五日に月一〇万円の給料を支払っていたことは認められる。ところで被告人がその使用する従業員に支払う給料は、毎月五日に前月分を支払うもので、その支払資金は預金から引出していたのであるが、給料支払の事実を証する証憑書類としては賞与明細書(押16)があるだけで、これ以外に従業員別の給与台帳も従業員名簿もないため毎月誰にいくら支払っているかということは明らかでない。そこで従業員給料支給額は、賞与支給分を除き、毎月の給料の支給日(当日が休日の場合はその前日)の預金引出額を基礎とし、その引出額のうちから給料以外に支払われたと認められる資料がなかったため、その全額が給料の支払に充てられたものと認定されているのである。林東基に対する給料の支払は、他の従業員に対するのと同様、毎月五日の給料支払日に支払われていたのであるから、同人に対する給料支払分はすべて、同日(またはその前後の日)に預金を引出して支払に充てた預金引出額中に当然含まれているものと認められる。よって、同人に対する給料は、他の従業員に対する給料の中に含まれてすでに認容ずみであるから、弁護人のこの点の主張も採用できない。

(法令の適用)

各事実につき所得税法二三八条(いずれも懲役刑と罰金刑を併科)。刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(第二の罪の刑に加重)、四八条二項。同法一八条(主文2)。同法二五条一項(主文3)。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本昭徳)

別紙一 修正損益計算書

自昭和43年1月1日

至昭和43年12月31日

林木祥

別紙二

修正損益計算書

自昭和44年1月1日

至昭和44年12月31日

林木祥

別紙三 課税所得金額および逋脱税額計算書

注(1) 79,106,000×75%=59,329,500円

59,329,500-9,180,700=50,148,800円

注(2) 100,615,000×75%=75,461,250円

75,461,250-9,481,500=65,979,750円

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